2016-04-01から1ヶ月間の記事一覧
部屋の暗さから愛の歩幅は自然と小さくなった。 足場を心配するように歩を進めるうち、 くりくりとした黒目の大きな目は暗闇に慣れていく。 部屋の真ん中で、布団がこんもりと小山を作っているのが見えた。 鼾とともにゆっくりと上下している布団の先で、 カ…
起きたのは保健室のベッドの上だった。 保険医の先生から貧血を起こしたらしいと聞かされ、 自覚症状はないかと訊かれた。 結愛は首を横に振った。 「だったら、何かショックな事でもあった? 極度に緊張したとか」 その質問に、結愛は優子とのやり取りを思…
私は資料室をスルーして、 すぐ隣にある図書室に足を向けた。 古さよりもそげの方が気になりそうな長机を、 漫画研究部の連中が陣取っている。 打って変わって健康的な賑やかさが耳をくすぐってきた。 貸し出しカウンターに無音で足を向けると、 「君、新入…
「人ん家だろ?」 「生命危機を問われてるこの状況で何言ってんのさ」 明かり取りか換気用の小さな窓を、 猫みたいに体をくねらせてくぐる弟に希一も続いたが 肩や腰や膝小僧などあちこちを窓枠にぶつけた。 結局、逆さまになって頭を何かにぶつけてから床に…
最初は右側。 現れたのは男の人だった。 背は低く、中肉。 顔の輪郭は顎が尖らないていど。 髪の毛は茶色。でも、眉毛は黒で描き分けられた。 上下グレーの服を着せて、 右手がズボンのポケットに入れられる。 ――なぜか、そのポケットは四角く角が立っていた…
優子の合宿が終わった日曜日の午後、結愛は大野家を訪ねた。 インターホンに出たのは薫だった 「ごめんね。今日は遊べないのよ」 優子は合宿中に体調を崩したのだそうだ。 ひょっとしたら、その時から優子はおかしくなっていたのかも知れない。 休みが明けた…
最高だ! と思った。 まさに個人主張と無干渉の塊が顧問なのだ。 あの手の『でもしか教師』が顧問するクラブが まともに機能しているはずがない。 どうかすると、活動破綻している可能性も望める。 ――無生産なお喋りを延々やってる 馴れ合いクラブというわけ…
「透かしのブロックに足を引っかけるんだよ!」 言われて希一は塀の横面に目を移した。 ブロック塀の上と下の段の数カ所に 漢字の「四」に似た形の透かしブロックがあるのをみつけ、 慌てて爪先を差し込む。 ブロックを足がかりに体を持ち上げた希一は、 荘…
季節は真冬だが、とても暖かな昼下がりだった。 気を抜いたら眠ってしまいそうな、そんな暖かな午後2時頃。 バルコニーのサッシ戸からは優しい陽射しがリビングに注がれている。 光を吸収した細かな粒子がカーテンを作り、 その中を数えられるほどの埃が舞…
それからの日々は雲間から陽が射したようだった。 結愛の読書感想はユニークだと褒められ、 優子は結愛専属のインタビュアーになった。 学校新聞でもとりわけ結愛の記事は人気が出た。 が、インタビュイーの名前はいつも匿名希望だった。 ――学校で有名になる…
攻めに転じた春と、受けに身構える冬がささめき、 廊下を満たす温度はわりと快適である。 その所為か、職員室前の廊下は進入生徒の黄色い声で忙しくご陽気だった。 そんな代物にはどうやっても同調できない私は、 歩幅の狭さが億劫に思えて仕方がない。 そん…
……………………………………………………………………………………………………。 臭い……。 生暖かく、酸味を帯びた臭気に鼻を突かれて、 少年は目を覚ました。 なんだろう……。 ささくれだった指に心臓を抓まれたような不安に駆られて辺りを見回す。 引き戸の隙間から細く射し込んでいる明かりが…
本から顔を上げると、 心配そうに眉を八の字にした少女が自分を見つめていた。 綺麗な人……。 良く通る澄んだ声。 短く切り揃えられた髪。 男子に負けず劣らずの背丈。 すらりと伸びた手足を包む薄手の長袖と タイトなジーンズは本当に彼女によく似合っていた…
荘輔が顔を寄せて来て小声に言う。「遅れたらだめだよ。 僕が道に降りたと同時に連中は起動する。 上るのに手間取ってたら、その間にも連中は迫(せま)ってくるんだ」 「――ああ、わかってる」 知らず言葉が尻すぼみになる。 希一はさきほど弟に言い捨てた台…
「それじゃあ、月々千円な」 カイトは『な』のところで後ろ手に手を振った。 ジェルハードを効かせたギザギザの髪は、 頭に『不逞(ふてい)の』を付けているようで、 輩(やから)特有の軽々しさを目に見えるようにしたみたくに逆立っていた。 彼の後頭部がドア…
この物語はフィクションかどうかわかりません 今もどこかで行われている悲劇かも知れないのです ただ、 この物語に出てくる人物、団体は現行する社会と一切関係ありません フィクションであるということを正しく理解出来る人のみお読み下さい 読後の起こる読…
おのずと結愛は図書室に入り浸った。 本はまるで宝箱だった。 表紙は別世界への扉で、 文章は夢への架け橋だ。 蓋を開くたびに、新しい言葉や語り口で物語が溢れ出てくるのだ。 それこそ、手触りすら感じられた。 本は結愛を魅了して離さなかった。 本を覗き…
どうも初めまして、樹ノ徒 創(きのと はじめ)です。 数年前より小説が面白くなって読みあさっているうちに、 いつの間にか自分でストーリーを空想するようになりました。 文章にしたのはこれが初めてで、まだ書き切れていません。 友人の俄と了一に何かの…
初めまして、付焼刃俄(つけやきば にわか)と申します。 この物語は僕が以前、別のブログサイトで掲載していたものでして 途中でほっぽり出していた未完結作です。 (その際、せっかく描いたキャラクターイラストを 無駄にしやがってとねこたろう氏から厳し…
たっぷり十分は待った頃、 荘輔が行動を始めた。 「これで周辺のやつらはいなくなったはずだよ。 先に降りるから、合図したら兄貴も続いて」 縄ばしごに足をかけた荘輔は慣れた動作で本通りへと降りていく。 地面に足を降ろし、 周辺に目をめぐらせた荘輔は…
荘輔(そうすけ)曰く、 玄関から出発しない理由は、 希一に縄梯子の使い方を覚えてもらいたいということと、 マンション内に潜んでいるかもしれないシカバネを懸念してのことだった。 ベランダに出ると希一は思わずに鼻を押さえた。 いい加減慣れていたはず…