序章 -06-
起きたのは保健室のベッドの上だった。
保険医の先生から貧血を起こしたらしいと聞かされ、
自覚症状はないかと訊かれた。
結愛は首を横に振った。
「だったら、何かショックな事でもあった? 極度に緊張したとか」
その質問に、結愛は優子とのやり取りを思い出した。
言葉を詰まらせる結愛の様子を見て、保険医はそれ以上は訊いてこなかった。
しばらくして、母親の栄子が迎えに来た。
うちに帰るなり自室の布団に潜り込み、
身体を縮こませて昼間の事を何度も反芻した。
優子お姉ちゃんが―――。
どうしてあんなふうになったんだろう。
次の日、風邪がぶり返したと言って学校を休んだ。
そして翌日。
「結愛、今日も学校休むの?」
栄子にそう訊かれ、結愛はこくんと頷いた。
「分かった。じゃあ、学校には電話しておくから。
何があったのか、ちゃんと教えなさい」
結愛が返事をするまで待った栄子は電話に手を伸ばした。
そこで着信音が鳴り響いた。
タイミングのよさに面食らった栄子は、
一拍おいて受話器を持ち上げる。
「はい、穂坂ですけど? ―――ああ、薫さん……どうしたの?」
栄子は眉と声は曇らせてた。
煮え切らない受け答えが続き、ふいに栄子がはっとした声を上げた。
頻(しき)りに結愛の顔と受話口を見比べる栄子の仕草に、
結愛は無闇に不安を掻き立てられた。
何かあったんだ。それもきっと悪い事が。
「はい、分かりました。
うちで力になれる事があったら、なんでも言って下さい」
通話が終わり、カタンと受話器が下ろされる。
栄子は眉を曇らせたまま、捜し物をするように足元へ目を落としている。
「どうしたの?」
結愛は耐えられなくなって投げかけた。
思い出したように顔を上げた栄子の表情は固まっていた。
眼を右へ左へと動かし、何事か逡巡している。
やがて、栄子は重そうに口を開いた。
「優子ちゃん、昨日の夜……交通事故に遭ったって。
その時、お父さんも一緒に……」
優子お姉ちゃんが―――。
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