ようこそ、新入部員！ －０４－
私は資料室をスルーして、
すぐ隣にある図書室に足を向けた。
古さよりもそげの方が気になりそうな長机を、
漫画研究部の連中が陣取っている。
打って変わって健康的な賑やかさが耳をくすぐってきた。
貸し出しカウンターに無音で足を向けると、
「君、新入部員？」
部員の一人が立ち上がった――さすがにここは気づかれても仕方がないか。
――ああ、透明人間になりたい……。
私は新入生らしく、黙って首を振ってあしらった。
こうする事で、相手の記憶には残りにくい。
実際、昨日ここにも体験入部していたが、
似たような対応をしていた。
なので目の前の上級生らしきロン毛の眼鏡男子は、
私の顔を覚えていない様子だった。
貸し出しカウンターまで行くと、
タイミング良く司書さんがノッソリと顔を上げた。
ご機嫌麗しいごま塩の蓬髪が目に染みる。
「ああ、君か」
「どうも」
お互い本のページをめくるような薄い声で挨拶しあった。
この学校は狭く、入学してから早(はや)三週間である。
それだけ通い詰めれば、どうあっても顔は覚えられてしまう。
「漫研志望かい？ それとも何か用向き？」
「今日から部活動が始まるんで、閉館前に本を借りておこうかと思いまして」
「そうかい、どれ？」
カウンターの上に置かれた『今週のオススメ』から
テキトーに一冊抜いて手渡す。
「…………」
受け取った文庫本を眼を細めて眺め回した後、
司書さんは私をチラ見してきた。
意図が分からない私が小首を傾げている間に、
司書さんは貸し出し処理のパソコンをいじり始める。
まあ、とにかく本題に入ろう――。
「ところで」
私は切り出した。
「さっき資料室の前を通ったんですが、
なんか騒がしくて――なんでしょうかね、あれ？」
「ああ、文芸部か」
司書さんはうんざりだと言いたげに深く息を吐いた。
「あそこは、素養の乏しい生徒のたまり場に成り果ててるんだよ。
まったく、あれは顧問の怠慢だな」
「へぇ～……」
私が適当な相槌を打つと、司書さんは腕を組んだ。
舌打ちが聞こえてきそうな渋面の顎に手を添えて続ける。
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