NIWAKAな綴り士

危険なモノ 奇妙なモノ そういったことに共感し思いついたことを綴ります

2016-05-01から1ヶ月間の記事一覧

幸せな家族 -09-

菜那は去年眼鏡学校から新卒で入社した。 二つ年上の後輩というややこしい間柄ではあるが、 一年先輩であるということで菜那は翔子に敬語を使っている。 最初はこのおかしな上下関係に戸惑ったものだが、 菜那の日和見判断で所々いい加減に取り成す性格を知…

六年生七不思議 -05-

博太は廊下の突当りにある給食運搬用のエレベーターへ歩き出した。 その後ろを結愛はうつむいたまま、とぼとぼついて行った。 六年生になって二ヶ月余り、ずっとこの調子だった。 真理がああなのはいつものことだが。 クラスのみんなにすらこう頻繁に冷やか…

ようこそ、新入部員! -10-

一口乗らないか? って 金髪ののぞき野郎はそう言いながら壁の上で組んだ手に顎を乗せた。 暗がりに白い歯が栄えている。 ルイス・キャロルの考えたいやらしい猫みたいだ。 「な、なんなの、あんた?」 嬉々とした様子でそいつを口をひらく。「それじゃあ説…

ACT Ⅲ   天竺鼠:ギニーピッグ ―22―

「荘輔!」 「クソォッ!」 荘輔は短い怒号を上げると噛みつかれたままの腕で少女のシカバネを振り払う。 突き飛ばされた勢いで、少女は家の壁へと激しく背中を打ちつけた。 身を起こした少女は恨めしそうに顔を持ち上げる。 口から痛々しく血を滴らせていた…

幸せな家族 -08-

駅構内にあるベーカリーショップ。 一面をガラス張りにしたショウウィンドウ越しに 「焼きたて」のポップカードと共に並んだパン達は 小腹を空かせた人の歩調を崩させていた。 穂坂翔子もお昼をパンに誘われたくちだ。 注文された商品の発注に手間取らされて…

六年生七不思議 -04-

「なんかさ、最近風強くねぇ?」 「夏だからだろ?」 「そうじゃなくてさ。北風みたいな――」 誰とも知れないひそひそ話にチャイムの音が被さる。 担任の山寺先生は持っていた大きなコンパスを黒板下のフックに引っ掛けた。 「はい、給食係りは給食の準備。 …

ようこそ、新入部員! -09-

「ううぅ……消えたいぃぃ……」 恥ずかしいぃぃ……ちょっと熱出るくらいだよこれ。 やばい、変な汗滲んできた。 いくら頭を振り回しても、さっき見たきょとん顔が振り払えない。 むこう一ヶ月は思い出すたびに顔が火を噴きそうだ。 しばらく便座に座って身悶えて…

ACT Ⅲ   天竺鼠:ギニーピッグ ―21―

険吞な面持ちでしきりにあたりを警戒しながら、 荘輔は辛抱強そうに一歩ずつ人工的に敷き詰められた芝生を踏みしめていく。 勝手口らしきシャッター付きのサッシ戸に近づいて、 ガラス越しに内部へ目を凝らしだす。 連中がいるのか? 希一は心配に思いながら…

幸せな家族 -07-

廊下のさきで引き戸が全開になっている子供部屋を一目見た洋介は、 「これじゃあ、お父さんの場所がないな」 手早く片づけて座れるようにする。 空いたスペースに愛が大きめの画用紙を敷き伸べ、 その真ん中にクレヨンが置かれる。 ――部屋中に散らばっていた…

六年生七不思議 -03-

「そ、そろそろ日が昇るな」 期待と不安に揉まれながら少年は取り留めのない事を口にした。 「そうだね……」 少女はそれを軽くいなし、決然とした顔を近づいてきた。 すうっと大きな瞳が瞼(まぶた)の裏に隠されていく。 戸惑う少年をよそに少女は躊躇(ためら)…

ようこそ、新入部員! -08-

私は上り階段を横目に、廊下へ出たところにあるトイレを目指した。 それにしても、「確かに、あんな目で見られるのはお断りだなぁ……!」 独り言をしながら廊下に出た私は、 つんのめるようにして足を止めた。 目の前に今し方見た背中がある。 スリッパと床が…

ACT Ⅲ   天竺鼠:ギニーピッグ ―20―

次の二件目、続く三件目の中継ポイントを過ぎるにつれ、 希一の壁渡りも次第に見れたモノになってきた。 ――その間に一体のシカバネにも出くわさなかったのが功を奏したらしい。 荘輔は目的地である町中央の一軒家に着くまで、 水や食料は探索行動に必要な最…

幸せな家族 -06-

たまさかな絵の品評会が終わり、 洋介は何気なく時計を見やった。 午後1時。真っ昼間じゃないか。 夜勤が明けてお義母さんの家に愛を迎えに行って 帰ってきたのが午前10時だったからほぼ3時間。 2サイクルは寝ている。けれど、まだ眠り足りない気分だっ…

六年生七不思議 -02-

「ひょっとして、心配してくれてる?」 「当たり前だろ!」 思わず声を大にしてしまった。 少女の目がぱちくりとしばたたかれる。 失態を誤魔化すため、少年は声作りを装って咳払いした。「言っとくけどな、あれはとても勧められたもんじゃないぞ。 俺の記憶…

ようこそ、新入部員! -07-

次の日が来るのもあっという間だった。 本日も教室内の空気に徹し、瞬く間に放課後。 そして私には行き場がない。 最低限それと見えないよう、鞄を下足のロッカーに押し込んだ後、 仕方なく校内を彷徨(うろつ)き回った。 相も変わらず廊下に生徒の姿はない…

ACT Ⅲ   天竺鼠:ギニーピッグ ―19―

「は? な、何でだよ!」 希一は思わず声を大にした。 理由が浮かばなかった。 荘輔は死体を切り刻むような行為をしたのだろうが、 それでも十歳の女の子を殺すなんて性格からいってあり得ない。 ひょっとして、荘輔の言うところの〝勉強〟をしたことが災い…

幸せな家族 -05-

ひとしきりじゃれ合い、 目の痛みが引いた洋介は愛を高く抱き上げて 自分の膝の前に正座させた。 見下ろすと子犬のように黒目がちな可愛らしい両目が見上げてきていた。 ツインに結われた長い髪は指を通せば澄んだ川の流れが思い浮かぶだろう。 えくぼする口…

六年生七不思議 -01-

朝焼けの前。 白みだした空は灰色で、模造紙みたく奥行きがない。 遠くで団栗の背比べをしているビル群は、 朝靄(あさもや)にかすんでいて模型みたいだ。 校舎の屋上、コンクリート葺(ぶ)きの床は 所々に経年劣化の白い罅(ひび)が浮いている。 耳を聾(ろう)…

ようこそ、新入部員! -06-

教室は施錠されてるので、行く当てなんかない。 「カコンッ」と、ししおどしのようにうなだれた私は、 一階に下りて教室横のトイレに入った。 まいったな。屋上は開放されてないからなぁ。 今さら、入部を取り下げるのも間が抜けてる気がするし、 そうは言っ…

ACT Ⅲ   天竺鼠:ギニーピッグ ―18―

「なにも一撃で殺せなくても動きを封じるような痛手を負わせればいいんだよ。 連中から攻撃力を取り除くって手もある」 「攻撃力?」 ゲームかよ? 希一はふざけてるのかと思ったが、 荘輔の表情に遊び心は微塵もない。 「噛まれないように顎を砕くとか、 引…

幸せな家族 -04-

突然――。 穂坂洋介(ようすけ)は顔を冷たい物に触れられた。 当然、目が覚める。 全身を心地好い常温に保たれていたところにやってきた、 やや無粋でどうにも拙(つたな)いアプローチ。 それは左右の頬に丸く柔らかい感触が破線状に連なっている。 ほんのり…

序章 -07-

事故に遭ったその日、 優子は通っている進学塾には行かず、 街の繁華街で友達と遊んでいたらしい。 それを帰宅途中の父親が見つけて、 「家に連れて帰る」と連絡があったそうだ。 その直後、国道を横断中に信号無視をしたトラックに轢かれたらしい。 優子の…

ようこそ、新入部員! -05-

「まあ、この学校の制度が産んだ不幸だ。 あの連中、帰りたくても帰れない。 だったらせめて、溜まり場を作ろうってわけだ。 素養がなくても、ないなりに頭は使えやがるからな。 運動系クラブだと、体育教官が睨みを利かせてる。 活動放棄はまず無理だ。 そ…

ACT Ⅲ   天竺鼠:ギニーピッグ ―17―

わかったよ、 と荘輔は雑具入れの引出しをさぐってボールペンを取り出し、 散らかっていたゴミからレシートに見付けて卓袱台に置いた。 「まず――」 荘輔が座ったので希一もそれに倣う。「連中には大脳がない」 裏返されたレシートにペンが走り、つたないイラ…