幸せな家族 -09-
菜那は去年眼鏡学校から新卒で入社した。
二つ年上の後輩というややこしい間柄ではあるが、
一年先輩であるということで菜那は翔子に敬語を使っている。
最初はこのおかしな上下関係に戸惑ったものだが、
菜那の日和見判断で所々いい加減に取り成す性格を知ってからは
名実共に後輩として扱い、こちらからはタメ口で話していたのだった。
「いいじゃないですか。甘々なメール見せて下さいよ~」
菜那は実年齢と仲が良いのか悪いのか、
31にもなって身体をクネンクネンさせる―――背骨の柔らかいことで。
携帯電話を置いた翔子は、
パックを開けてタマゴサンドをひとくちかじった――。
携帯が鳴りだした。設定していたメロディがメールだよと言っている。
取り上げると洋介からの返信メールだった。
今送ったばかりなのに。
洋介は夜勤明けのはずだ。まだ寝ていると思っていたから、
夕方までに返事があればいいと翔子は思っていた。
ひょっとして起こしちゃったのかも。
「今度は携帯とにらめっこですか?」
カレーパンで唇をてからせた菜那が、画面と翔子の顔を見比べている。
メールを開いた翔子は口元を綻ばせた。
「あっ、携帯が勝った」
菜那が勝手なことを言っているのを横目に、内容を読みかえす。
[ 件名 Re:何が食べたい?
本文 愛が大きいジャガイモのやつを所望しています ]
なるほど、愛(まな)が新しい絵でも描いたんだな。
あの子は気に入った絵が描き上がると
すぐ見てもらわなければ気が済まない性格だから。
翔子はレスポンスの早さの理由が分かってほっとした。
仕事から帰ってきた洋介はいつも死にそうな顔になっているのである。
なるべく睡眠の邪魔はしないようにしてはいるが、
愛を思うとたまにこうやって
その場の勢いからメールしてしまうのだった。
それだけ洋介には気の置けないのだけど、もう少し気をつけよう……。
帰りに食材の買い物をしておくと返して、翔子は昼食に戻った。
続き
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