MANA-Imaginary world-
展示されているフレームに見入っている背格好は男女の判別がしにくかった。 身なりは自分が普段着ている服と似ているが、 最近では細身の男性でも好む服装だ。 その人が振り返り、 「あ、どうも」 顔を見て翔子はようやく女性であると判断できた。 頭の丸み…
翔子の勤めている眼鏡店〝Specchio di True〟スペッキオ・デ・トゥルー。 丁寧にもイタリア語の大字を掲げた看板には『真実の鏡』と翻訳までふってあるその店は小さかった。 沿線の通りにあり、駅まで五分もいらない。繁華街とは反対側という立地条件を差し…
菜那は去年眼鏡学校から新卒で入社した。 二つ年上の後輩というややこしい間柄ではあるが、 一年先輩であるということで菜那は翔子に敬語を使っている。 最初はこのおかしな上下関係に戸惑ったものだが、 菜那の日和見判断で所々いい加減に取り成す性格を知…
駅構内にあるベーカリーショップ。 一面をガラス張りにしたショウウィンドウ越しに 「焼きたて」のポップカードと共に並んだパン達は 小腹を空かせた人の歩調を崩させていた。 穂坂翔子もお昼をパンに誘われたくちだ。 注文された商品の発注に手間取らされて…
廊下のさきで引き戸が全開になっている子供部屋を一目見た洋介は、 「これじゃあ、お父さんの場所がないな」 手早く片づけて座れるようにする。 空いたスペースに愛が大きめの画用紙を敷き伸べ、 その真ん中にクレヨンが置かれる。 ――部屋中に散らばっていた…
たまさかな絵の品評会が終わり、 洋介は何気なく時計を見やった。 午後1時。真っ昼間じゃないか。 夜勤が明けてお義母さんの家に愛を迎えに行って 帰ってきたのが午前10時だったからほぼ3時間。 2サイクルは寝ている。けれど、まだ眠り足りない気分だっ…
ひとしきりじゃれ合い、 目の痛みが引いた洋介は愛を高く抱き上げて 自分の膝の前に正座させた。 見下ろすと子犬のように黒目がちな可愛らしい両目が見上げてきていた。 ツインに結われた長い髪は指を通せば澄んだ川の流れが思い浮かぶだろう。 えくぼする口…
突然――。 穂坂洋介(ようすけ)は顔を冷たい物に触れられた。 当然、目が覚める。 全身を心地好い常温に保たれていたところにやってきた、 やや無粋でどうにも拙(つたな)いアプローチ。 それは左右の頬に丸く柔らかい感触が破線状に連なっている。 ほんのり…
部屋の暗さから愛の歩幅は自然と小さくなった。 足場を心配するように歩を進めるうち、 くりくりとした黒目の大きな目は暗闇に慣れていく。 部屋の真ん中で、布団がこんもりと小山を作っているのが見えた。 鼾とともにゆっくりと上下している布団の先で、 カ…
最初は右側。 現れたのは男の人だった。 背は低く、中肉。 顔の輪郭は顎が尖らないていど。 髪の毛は茶色。でも、眉毛は黒で描き分けられた。 上下グレーの服を着せて、 右手がズボンのポケットに入れられる。 ――なぜか、そのポケットは四角く角が立っていた…
季節は真冬だが、とても暖かな昼下がりだった。 気を抜いたら眠ってしまいそうな、そんな暖かな午後2時頃。 バルコニーのサッシ戸からは優しい陽射しがリビングに注がれている。 光を吸収した細かな粒子がカーテンを作り、 その中を数えられるほどの埃が舞…
……………………………………………………………………………………………………。 臭い……。 生暖かく、酸味を帯びた臭気に鼻を突かれて、 少年は目を覚ました。 なんだろう……。 ささくれだった指に心臓を抓まれたような不安に駆られて辺りを見回す。 引き戸の隙間から細く射し込んでいる明かりが…
この物語はフィクションかどうかわかりません 今もどこかで行われている悲劇かも知れないのです ただ、 この物語に出てくる人物、団体は現行する社会と一切関係ありません フィクションであるということを正しく理解出来る人のみお読み下さい 読後の起こる読…