2016-03-01から1ヶ月間の記事一覧
「ちょっと気になってることがあるんだ……」 出発の準備をしながら荘輔がこぼすように言っていた。 そのことが何故か引っ掛かる。 荘輔は〝気にしている〟と言っているのに、 言葉のイントネーションは乾燥してるみたいに味気なく、 希一は荘輔が放つ妙な凄み…
はてなブログへの引っ越しを思案中でございます。 その際、 以前にやっていたブログと統合させてみようかな とか考えております。 現在、奇譚ブログは一日平均3~5人の方に見て頂けている様子でして 本当に嬉しく思っております。 引き続き皆さまに楽しん…
それから、すぐに決断を迫られることになった。 精神の共に回復した身体は、 これまで摂取できなかった食物を貪欲に欲しがり、 見る間見る間に部屋を満たしていた食料は減っていった。 加えて電気が止まり、 数日前から水道の圧力も頼りなくなってきている。…
いきなり大きな物が手に触れた。 取り出すと、 への字に湾曲(わんきょく)した大振りの鉈だった。 ナイロン織りの鞘から引き抜くと同時に鉄臭さが増す。 収められていた濃密な臭気を放つ鉈の刀身は、 綺麗に拭かれているが、 その色味は枝葉をはらうために…
荘輔の部屋に戻ると、 さっきは気が付かなかったがサッシ戸のクレセント錠が開いている。 希一はサッシ戸に手をかけた。 夜明かりに浮かび上がったベランダの手摺り、 その二カ所に見慣れない縄が縛り付けてあり、 縄の結び目が何かのタイミングでみしりと軋…
思えばついこの前にも聞いた気がした。 あの時は半分寝ていたので空耳だと決め付けた。 だが今回は違う。 はっきりと目が覚めている状態でこの耳で聞いたという自覚があった。 布団をはね除けた希一は耳を澄ませた。 外を誰かが走っている。 すぐそこの本通…
極力居間を使わないことにし、 生活空間の幅を自室のみに狭めて数日が経った。 いよいよ冬の到来を告げるように昼間の室内でも息が白くなりだした。 なので、暖房器具をフル稼働にしている。 これまで音が気になってスイッチを入れられなかったが、 自室のド…
「兄貴、兄貴」 荘輔に肩を揺すられて希一は目を覚ました。 見ればカーテン越しに陽の光が差し込んで部屋が明るくなっている。 「よく寝てたね」 荘輔が目許にクマの溜めた顔で呆れている。 「あ――、悪い」 ばつが悪い希一に、荘輔は妙にすっきりした声を返…