幸せな家族 -11-
展示されているフレームに見入っている背格好は男女の判別がしにくかった。
身なりは自分が普段着ている服と似ているが、
最近では細身の男性でも好む服装だ。
その人が振り返り、
「あ、どうも」
顔を見て翔子はようやく女性であると判断できた。
頭の丸みが綺麗に見える短髪で顔立ちも中性的だが、
声質と肌の張り方は女性特有のものだ。
学生かな?
まだ幼さが窺える彼女の顔形に翔子はそう思った。
若いのにわざわざこの店に来るなんて、誰かの紹介かな?
「本日はどういったご用向きでしょうか?」
「まあ――、眼鏡を見に来たんですけど」
眼鏡屋に他の用件で来る人がいるの? と言いたげに彼女は小首を傾げた。
いるんですよ。迷惑客の高橋夫人を思い浮かべつつ、翔子は次の質問に移った。
「お仕事用ですか? それとも、私生活でお使いになられます?」
「できたら兼用できるやつが良いんですけど」
翔子は彼女をカウンターの椅子に座らせてから質問を重ねていった。
眼鏡の使用シーン。職業。眼鏡の購入歴などなど……。
「なんか、精神科の面接みたいですね」
「お手数お掛けします。よりお客様の理想にあった品を差し上げたいので」
女性は玄沢美縁(くろさわ みより)と名乗り、
翔子の質問に協力的に答えてくれた。
学生かと思っていたが、この付近の病院に勤めている看護師だそうだ。
この店のことを訊くと、やっぱり友人からの紹介だと言う。
質問の答えを粛々とメモに取った翔子は美縁に最後の質問をした。
「目の検査はお済みですか?」
「え、視力検査ならここでもできるんじゃないですか?」
「ええ、視力検査は出来ますが――」
続く……