2016-06-01から1ヶ月間の記事一覧
「いや、だから、どこで私の名前を……」 「ヒントはやった」 言いながらカイトと名乗ったそいつはまた階段に腰を下ろした。 「ともかく、俺の話を聞くしかないんじゃないか? 小我裕生」 語尾を吊り上げた後、パネルがひっくり返ったように笑みがいやらしいモ…
「穂坂さんってわりとしゃべるんだね」 博太の声が耳に入った結愛は、唐突に白昼夢から覚めた。「ごめん」結愛は手でそっと口を隠した。 目を伏せると、さっきの博太の顔が頭をよぎった。 こんな事をしてしまうから、みんなに避けられるんだ。 実際、結愛自…
「最近よくいらっしゃいますねぇ。 ご期待に添えなくて恐縮なのですが、 今日もご紹介できる品はないんですよ」 言葉づかいとは裏腹に易者の態度は太々しく堂々としていた。 僕は帰ろうと椅子から腰を浮かしかけた。 すると、易者はちょんと髭を撫でてから椅…
頭にピキッと走るモノがあった私はさっさと屋上階に上がりきる。 「今日来るとは思わなかったぜ」 「……はあ?」 「いや、だってお前泣きそうだったからさぁ」 目を落ち着かせるのに費やしたあの数分間を思い出して頭が熱くなる。 つい力んでしまい、首筋辺り…
翔子の勤めている眼鏡店〝Specchio di True〟スペッキオ・デ・トゥルー。 丁寧にもイタリア語の大字を掲げた看板には『真実の鏡』と翻訳までふってあるその店は小さかった。 沿線の通りにあり、駅まで五分もいらない。繁華街とは反対側という立地条件を差し…
「星の王子さまって言う本!」 廊下の端から端まで大音声が響き渡った。 前方にいる子達がもれなく振り返る。 思わぬ大声に自分でも驚いている結愛の目の前で、博太が飛び上がった。 「び、びっくりしたぁ」 鳩が豆鉄砲をなんとやらで、博太は目を丸くしてい…
数分後、私はトイレから出てきた。 引き絞られた恐怖がねじ切れて怒りに化ける数分だった。 あいつの胸ぐらを締め上げなければ。どこで私の名前を――。 考えながら持ったままになっていた文庫をポケットに押し込んだ。 もう片方の手にはあの紙切れ。 印字され…
「なんで捻挫したなんて嘘つくんだよ」 「外から帰ってきて「噛まれた」なんて言ったら、 兄貴はシカバネに噛まれたって思うんじゃないの? 余計な心配はかけれないよ」 「この子の話を聞いてたらそうは思わねぇよ」 希一はライトを向けたが。少女の頭部を照…