NIWAKAな綴り士

危険なモノ 奇妙なモノ そういったことに共感し思いついたことを綴ります

幸せな家族 -07-

 廊下のさきで引き戸が全開になっている子供部屋を一目見た洋介は、

 

「これじゃあ、お父さんの場所がないな」

 

 手早く片づけて座れるようにする。

 

 空いたスペースに愛が大きめの画用紙を敷き伸べ、

 その真ん中にクレヨンが置かれる。

 ――部屋中に散らばっていたと思っていたクレヨンが

   いつの間にか整然とケースに収まっていたので洋介は感心した。

 

 さっそく愛は黒色のクレヨンを画用紙にこすりつけ始めた。

 顔は真剣そのものでわき目もふらない。

 愛は絵を描き始めるといつもこうで、

 親としてでも話しかけるのをはばかられる気迫だった。

 

 絵はあまり得意でないというのが理由ではないが、

 洋介はクレヨンを手に取るのは後回しにした。

 

「愛、先に絵を貼り付けちゃおうか?」

 持ったままになってい愛の最新作を振ってみせる。

「どこに貼る?」

 

 顔を上げた愛も思い出したようで、

 電灯がつくようにぱっと顔を明るくして立ち上がった。

 いつものところに目を馳せて、迷わず一点を指をさす。

 

「ここ!」

 

 愛が指をさした先には幾つもの絵がテープ止めされていた。

 そこは愛の個展なのだ。

 絵の並び方にこれといった規則はない。

 畳二畳ほどの範囲で大小、色使い、静物、動物と様々な絵が

 たまたまダーツが当たったと言った具合に掲げられていた。

 愛が貼りたいと言ったところ貼る。決まりがあるとすればそれだった。

 

 今回、愛が指さしたところは個展のど真ん中。

 今まで敢えて選ばなかったらしき空間だった。

 

 つまり、愛のとっておきの場所というわけだ。

 

「そこ?」

 

 悪戯心をくすぐられた洋介は、つい意地悪な声音で訊いた。

 

 すると愛は小さな指で断固としてさしなおす。

 

「ここ!」

 

「どうしても?」

 

「どうしても!」

 

「ファイナルアンサー?」

 

「ファイナルアンサー!」

 

 愛は両拳を振り下ろして空気を叩く。

 

「わかったよ」

 

 まだ残っている子供っぽい部分を充実させて満足した洋介は、

 愛の指示通りに絵を張り付けた。

 

「あとでママにも見せような」

 

「うん!」

 

 こっくりとうなずいて自分の作品を前に胸を張る愛がどうしようもなく誇らしくて、

 洋介は知らず愛の頭を撫でていた。

 

 続き

 ↓

幸せな家族 -08- - NIWAKAな綴り士