六年生七不思議 -02-
「ひょっとして、心配してくれてる?」
「当たり前だろ!」
思わず声を大にしてしまった。
少女の目がぱちくりとしばたたかれる。
失態を誤魔化すため、少年は声作りを装って咳払いした。
「言っとくけどな、あれはとても勧められたもんじゃないぞ。
俺の記憶では十中八九良い結果にならない。
お前だって知ってるだろ?」
そう前置きし、少年は口をもぐもぐさせながら続けた。
「だから手伝ってやる」
愚痴をこぼすような情けない声音だ。
「そんなに心配してくれてるんだ」
少女はくすぐったそうな顔をして手を後ろで組んだ。
「ありがとう。約束だよ」
「ああ」少年は何もない床の上に見つけた透明な小石を蹴飛ばした。
視線を上げるとふいに少女の目がにっこりと細められた。
うなじに粟立ちを感じた少年は思わず外方を向いた。
「今まで会ったなかで、
お前と一緒にいるのが一番楽しかったからな――あっ……」
しまった……。
言い終えたところで少年はそう思った。
恥ずかしさを紛らわそうとして、
口走ったこの言葉の指す意味は一つしかないのだ。
嘘はないが、だからこそ胸にしまっておこうと決めていた気持ちだった。
――自分にはその資格がないのだから。
少女がいなくなってしまうかも知れないという懸念からか?
あるいは引き止めたいと願うあまりにか?
どちらにしても本音には変わりない。
我ながら己の弱さが嫌になってくる……。
少年は頭を抱えたくなった。
「今のって、どういう意味?」
少女は少し戯け調子に訊いてきた。
「深い意味なんてない。言葉通りの意味だ」
気の利いた言い分けなんて思いつかない。
早口に答えた少年は目を泳がせた。
「ふ~ん、あっそ」
何かが、「コツンッ」とぶつかってきた。
はっとなって隣を見やる。
顔をうつむけた少女が肩をくっつけてきて、その頬は淡く色づいている。
少年の胸に心地好いきゅんとした痛みがはしった。
ふわりと浮かび上がった気がした。
体中から体温が集まってくるような熱を顔に感じる。
自分という存在には用のない、
分不相応な感情の奔流(ほんりゅう)に少年は弄(もてあそ)ばれた。
「ねぇ……」
意味深な声を響かせて、少女が顔を上げる。
おのずと向かい合う格好になった。
背の高さは同じくらい。
少年のちょうど真正面に少女の顔があった。
一線の前に立っている。少年はそう思った。
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