ようこそ、新入部員! -10-
一口乗らないか? って
金髪ののぞき野郎はそう言いながら壁の上で組んだ手に顎を乗せた。
暗がりに白い歯が栄えている。
ルイス・キャロルの考えたいやらしい猫みたいだ。
「な、なんなの、あんた?」
嬉々とした様子でそいつを口をひらく。
「それじゃあ説明しよう。俺はカイ――」
「じゃなくて、ここは女子トイレだよ!」
自分でも疑問に思うくらい落ち着いた声が出た。
つもりだった……。
「ああ、悪かったよ。泣きそうな顔すんなって」
たしなめられてようやく目頭が熱くなってる事に気がついた。
同時にこの線眼の顔色を読まれた事にたじろぐ。
「場所変えようぜ。まあ、騙されたと思ってここに来てみろよ」
戯(おど)けながらも気取った仕草で取り出したのは二つ紙切れ。
金髪の怪しいのぞき野郎は
人差し指と中指に挟んだそれを差し出してくる。
なんだか汚らわしい物を見せられてるみたいで、
さらに目を細めていると、
「お互い好都合な話だと思うぜ」
ちょうど目の高さで紙切れが開いた。
思わず目が吸い寄せられる。
「ほら」
と、促されたので反射で受け取ってしまった。
その紙には、
『 来たれ難民 我らは幽霊部
入部を希望するなら
4時10分から30分までに屋上の扉前へ 』
と印字されていた。
「何これ?」
「あらかじめ言っておく。
この部活は、この学校組織に対してささやかに刃向かう
如何わしい部活だ。
俺はここ一度でしか誘わないし、
待つのも今日この後と明日だけだ。
時間はそこに書いてあるとおりだ」
唐突に真剣味を帯びた声音を聞かされた。
はっとして顔を上げる。
しかし、壁の上にあった組んだ手と白い歯は、
音も無く消えていた。
ひょっとして私の気のせい?
一瞬思考が停止する。自分の精神状態を疑って不安になった。
コンコンッ!
強めのノックに個室のドアを叩かれた。
肩がビクッと硬直する。
「こう言ったチャンスは少ないと思うぞ」
擦るような足音を響かせて、
私の名前を知っている不逞な金髪ののぞき屋の誰かさんは
トイレを出て行った。
続き