NIWAKAな綴り士

危険なモノ 奇妙なモノ そういったことに共感し思いついたことを綴ります

ようこそ、新入部員! -08-

 私は上り階段を横目に、廊下へ出たところにあるトイレを目指した。

 

 それにしても、
「確かに、あんな目で見られるのはお断りだなぁ……!」

 

 独り言をしながら廊下に出た私は、

 つんのめるようにして足を止めた。

 

 目の前に今し方見た背中がある。

 

 スリッパと床が甲高い擦過音を上げ、

 一瞬の余韻を残して廊下の沈着とした空気に消えた。

 

 不意に彼女がうつむいた。

 幽かに溜め息が聞こえ、その小さな肩を長髪の毛先が撫でていく。

 

 やば! ひょっとして聞かれた?

 

 彼女は振り向くでもなく立ち尽くしている。

 はなはだばつの悪い空気がおりてきた。

 

 ともあれ、私がどうにか出来る事ではないし、しようとも思わない。
 そんな状況を作ったあんたが悪いんだからさ。

 ――て言うか! そうじゃなくて、

 一般論で単に邪魔だと思えば良い事態のはずだ。

 この場合。

 そうだとも!
 まあ、ここは取りあえず。

 

「あっ、すいません」
 謝るだけした。

 

 彼女を追い越し、私は数歩先のトイレに足を進める。

 

 ふと目をやった廊下の先に、

 とっぽそうな男子が見えた。

 こっちに歩いて来る。

 スリッパは青。三年生だ。

 いかにも輩の素行で、投げ出すようなすり足歩き。

 ズボンは腰で履いていた。

 

 関わり合いたくない部類の外見だ。はっきり言おう――怖い。

 

 私は気持ち焦って、トイレのドアを開けた。
 その際に、何げなく難民の彼女を見やった。

 すると――。
 きょとんと見開かれた彼女の団栗眼と、

 名が体を表す私の糸目の視線がかち合った。

 

 なんともいたたまらない思いに突き上げられ、

 私は開いたドアの隙間に体を滑り込ませてトイレに入る。

 

 途端に、見慣れない風景が視界いっぱいに広がった。

 

 ……トイレって、こんなに開放感あったっけ?

 あれ? 和式便器が逆立ちしてる。

 

 と思った拍子に彼女のきょとん顔が頭を横切った。

 

「あっ!」

 

 生来空前の大失態に気づいた私は、

 声に出して叫ぶのと、ドアを引き開ける事を同時にやってのけた。

 廊下には脇目も振らず、すぐ隣のドアを押し開ける。

 何も考えないようにして一番手前の個室に入り、私は頭を抱えた。

 

 ううぅ……トイレを間違えた。

 

 続き

 ↓

ようこそ、新入部員! -09- - NIWAKAな綴り士