NIWAKAな綴り士

危険なモノ 奇妙なモノ そういったことに共感し思いついたことを綴ります

ACT Ⅲ   天竺鼠:ギニーピッグ ―16―

「人ん家だろ?」


「生命危機を問われてるこの状況で何言ってんのさ」

 

 明かり取りか換気用の小さな窓を、

 猫みたいに体をくねらせてくぐる弟に希一も続いたが

 肩や腰や膝小僧などあちこちを窓枠にぶつけた。

 

 結局、逆さまになって頭を何かにぶつけてから床に着地する。

 ぶつけたところを撫でさすって立ち上がった。

 

「トイレかよ……」


 開かれたドアの向こうは狭い廊下になっている。

   ペンライトの明かりを絞って荘輔について行くと居間に入った。 

 気が滅入りそうな色合いのカーペットが敷かれた部屋の中央に卓袱台、

 壁に沿って雑具入れの引出しや棚やテレビが設えてあり、

 和室に続いているだろう両開きの襖がある。

 

 極めて普通の部屋だが、あちこちに争った形跡があった。

 

 カーペットは踏み荒らされ、

 棚の上の電話は受話器を床までぶら下がり

 、ガラス戸は蜘蛛の巣状のひびが走っている。

 蹴飛ばされたゴミ箱からはゴミが散乱し、卓袱台は大きく動かされていた。

 壁紙のそこここがなすられたり飛沫したりした血で汚れている。

 

 中でも一際大きく汚れているのは襖だった。

 

 希一は襖を開けようと引き手に指を掛けたが、掛けただけで終わった。
 凄く厭なモノを感じた。外よりも濃い臭気が襖の隙間から漂ってきているのだ。

 

 襖から離れようとしていると後ろから手が伸びてきた。
「ああそうだった、見ておいた方が良いよ」

 

「何を?」
 襖を開けようとする荘輔の手を掴んで止める。

 

「連中への対抗策」

 

「つまりなんだよ」

 

「連中の殺し方だよ」

 

 希一は息を飲み込んでから訊いた。
「じゃあ、向こうに死体があるってのか?」

 

「うん、僕がやった。

 初めてだったから手間取ったけど、おかげで方法は分かったよ」

 

 またぞろ開けようとする荘輔に希一は背を向けた。

 

「どうしたのさ?」

 

「見たくない」

 

「そんなこと言ってたら、またさっきみたいになるよ」

 荘輔は聞かん坊に言うような声を聞かせてきた。

 

「見なくても説明してくれれば分かる」
 希一は弟に向き直った。
「さっきだってお前が上り方を言ってくれてたら俺はまごつかずに済んだんだ」

 

「それはそうだけど」
 荘輔は決まり悪そうに続ける。

「今は急ぐ必要はないし、見れるなら見ておいた方が把握し易いよ」

 

「いいから、説明しろ」

 

 わかったよ、と荘輔は雑具入れからペンを取り出して、

 散らかっていたゴミからレシートに見付けて卓袱台に置いた。

 

 続き。

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