NIWAKAな綴り士

危険なモノ 奇妙なモノ そういったことに共感し思いついたことを綴ります

序章 -07-

 事故に遭ったその日、

 優子は通っている進学塾には行かず、

 街の繁華街で友達と遊んでいたらしい。

 それを帰宅途中の父親が見つけて、

 「家に連れて帰る」と連絡があったそうだ。

 

 その直後、国道を横断中に信号無視をしたトラックに轢かれたらしい。

 

 優子の訃報は、結愛にはまったく実感が持てなかった。

 ついこの間まで立って歩き、

 楽しくおしゃべりをし、

 二人で遊んでいたのに……。

 

 結愛は夢現(ゆめうつつ)のおぼつかない足取りで告別式に立ち会った。

 

 今、目の前の棺の中で優子が眠っている。

 いつか本で読んだ〝憑きものが取れたよう〟という言葉が思い出された。

 

 化粧を施された顔は穏やかで、頬は淡く紅がさされている。

 事故の際についたのだろう小さな傷がいくつか浮かんでいたけれど、

 優子の寝顔は前と変わない。

 とても綺麗で、優しかった頃の優子のものだった。

 

 ふと、優子の新聞作りを放課後まで残って手伝った日が思い浮かんだ。

 

 特徴的な丸みある字で書かれた下書きをボールペンで清書していた優子は、

 いつの間にか居眠りをしていた。

 

 

 真面目は優子が居眠りをするなんて珍しくて、

 ついつい寝顔に見入ってしまったものだ。

 天使や女神といった幻の人物が眠ったのなら、

 多分こんな寝顔になるのだろうと結愛は思ったのだった。

 

 優子のそんな顔を思い出した結愛は、

 胸の奥に「ドスンッ」と落とし込まれるような衝撃と痛みを覚えた。

 

 目を離していた事柄に色がつき、急に現実感をまといだしたのだ。


 棺の傍(かたわ)らでは、

 消沈した様子の薫が喪服で黒くなった背中を丸めている。

 

 結愛の感情はようやく現実に追いついた。

 

 もう、あの優しい声を聞く事ができないんだ。

 この髪を梳いてくれて、頬を温かく包んでくれた手はもう動かないんだ。

 

 泣いていると気がついたのは、頬を伝った涙が棺の蓋を濡らした時だった。

 

 結愛の胸に深く、大きな傷が刻み込まれた。

 

 優子お姉ちゃんが――。

 死んだ。

 

 次回から次章です。

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六年生七不思議 -01- - NIWAKAな綴り士