NIWAKAな綴り士

危険なモノ 奇妙なモノ そういったことに共感し思いついたことを綴ります

ACT Ⅲ   天竺鼠:ギニーピッグ ―13―

 たっぷり十分は待った頃、

 荘輔が行動を始めた。

 

「これで周辺のやつらはいなくなったはずだよ。

 先に降りるから、合図したら兄貴も続いて」

 縄ばしごに足をかけた荘輔は慣れた動作で本通りへと降りていく。

 

 地面に足を降ろし、

 周辺に目をめぐらせた荘輔はこちらに手を振った。

 

 よし、降りるぞ!

 

 これが安心して出来る最後の深呼吸と思って

 希一は大きく息をついてから、ベランダの外側に身をにじらせた。

 

 荘輔のアドバイスにしたがい、

 足の腹を前へ突き出す様にして下段の足がかりをとらえる。

 針金とロープで編まれた梯子は、

 つたない材料と製作法をうかがわせる情けない音をたたせて軋んでいた。

 

 二、三分の格闘の末、足先が地面にふれる。
「ふう――」

 

「こっち」
 希一が息をつくのもつかの間、

 荘輔は労いも言わずに歩き出す。

 

 こちらを見もしなかった荘輔の目は色が変わっていて、

 必要と肝要以外に用がなさそうだった。

 

 先刻いっていた通り、

 荘輔は住宅同士を隔てる塀に上り始める。

 実に四ヶ月ぶりのアスファルトの感触は、

 希一にとって嫌に暴力的に感じられ、歩き出しの反動が膝にきた。

 

「早く」

 希一が塀を上るのに手間取っていると荘輔に急かされた。

 

「わかってる」

 そうは言って希一は無理矢理よじ登る。

 

 希一の両足が立つのを待って頷いた荘輔は、

 勝手知ったる風に塀を辿りだした。

 なかなかバランスを取れないでいる希一を尻目に、

 荘輔の背中がどんどん小さくなっていく。

 

 足下から目を離せない。

 希一は危うい足取りでもなんとか両側の家の壁に手を突いて追いかけたが、

 結局引き手の荘輔を立ち止まらせてしまった。

 

 数メートル先の塀が途切れている所で、

 荘輔はほっとした顔で振り返る。
「なんとか歩けるみたいだね」

 

「あ?」
 バカにされた気がして希一は苛立った。

 

「いや、マジでさ。よかったよ。

 追いついてこれなかったら、帰ってもらうつもりだったから」

 

「おい、あんまりなめんなよ。

 お前に出来る程度のことなら俺にも出来るよ」

 

「じゃあ、行こう」
 言うなり荘輔は歩き出した。

 

 住宅の壁が途切れている向こうへ首を伸ばして覗き込んだ荘輔は、

 道の両側の様子を窺いだす。

 

 顔だけで振り向いた荘輔は、

 左を指さして人差し指を一本立てた。

 

 どうやら道の左側に一体のシカバネが居るようだ。

 

 そうして荘輔は道を挟んで斜向かいの家の間を指さす。

 そこには希一の背丈よりも高い壁があった。

 

 まさか今度はあの壁を上るのか……?

 

 続く http://niwaka151.hatenablog.com/entry/2016/04/15/171646