NIWAKAな綴り士

危険なモノ 奇妙なモノ そういったことに共感し思いついたことを綴ります

序章 -05-

 優子の合宿が終わった日曜日の午後、結愛は大野家を訪ねた。

 

 インターホンに出たのは薫だった

「ごめんね。今日は遊べないのよ」

 

 優子は合宿中に体調を崩したのだそうだ。

 

 ひょっとしたら、その時から優子はおかしくなっていたのかも知れない。

 

 休みが明けた火曜日も優子は学校に来なかった。

 電話をかけてみると優子が出た。
「明日は学校に行くから」

 その声は少しかすれていた。

「うん、早く元気になってね」

 

 次の日の水曜日。

 友達と連立って歩いている優子を廊下で見つけた。

 結愛は嬉しくなって駆け寄った。

 近づくにつれ、二人の姿に違和感を覚えた。

 

 こちらに気づいて振り向いた優子の服装を一目見て

 結愛は立ち止まってしまった。

 

 優子はらしくない派手な重ね着をして、

 目は鬱々と細められている。

 顔色も悪く、表情から感情が見えてこない。

 デパートのマネキンみたいだ。

 

 人違いをしたのかも……。
 結愛が呆気に取られていると、

 

「もうあんたとは遊べないの。それじゃ」
 優子はきっぱりとそう言い切って背を向けた。

 

 言われた事が理解できず結愛は優子に追いすがった。
「どうして、なんでもう遊べないの?」

 

「優子ぉ、なんなのこの子ぉ」
 高圧的な声に耳を引っ掻かれた。

 声の方へと目をやった結愛は息がつまった。

 優子の隣にいる女子は小学六年生なのにもう化粧をしていた。

 うっすらと漂う香水の匂いに鼻をつまみたくなる。

 ――もう女としての武装をしている。

 優子なら絶対に付き合わない部類の子だった。

 

 なんだか、とても場違いなところにいる気がした結愛は

 急に不安になった。

 思わず足元に目を落としていると、

 自分の上履きの前に優子の上履きが向かい合って立った。

 

「前の私がどうだったかなんてどうでもいい。

 とにかく今は違うの。そのくらい分かりなよ」

 

 結愛は視線を上げた。

 目に映ったその顔を見て、自分に訊いてしまった。

 

 ――誰、この人……?

 

 優子は人が変わっていた。

 これまでの彼女からは想像もできない、

 無感情で冷たい眼に射竦(いすく)められる。

「それと、もう電話もしないで」

 

 言葉を胸に突き立てられる。

 耳鳴りしてきた。

 足が震えて結愛は膝をつきそうになった。

 

「分かった?」
 優子に語気を強めて念を押される。

 

 頷くと同時に、結愛はその場に倒れた――。

 

 

  続きです。

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