NIWAKAな綴り士

危険なモノ 奇妙なモノ そういったことに共感し思いついたことを綴ります

ACT Ⅲ   天竺鼠:ギニーピッグ ―14―

 荘輔が顔を寄せて来て小声に言う。
「遅れたらだめだよ。

 僕が道に降りたと同時に連中は起動する。

 上るのに手間取ってたら、その間にも連中は迫(せま)ってくるんだ」

 

「――ああ、わかってる」

 知らず言葉が尻すぼみになる。

 希一はさきほど弟に言い捨てた台詞が、

 本当に自分の口から出たものなのかと自信がなくなったいた。

 

「3で行くよ。僕の靴のかかとを踏んづけるつもりでついてきて」

 

「待てよ」

 

「なに?」

 

「あの塀、ちょっと高すぎやしないか」

 

「先に上るからよく見ておいて」

 荘輔は行く先に顎を振りながら

「大丈夫、我武者羅(がむしゃら)にやればなんとかなるよ」

 

 荘輔は肩口で指を一本立てる。

 すぐに二本目が立った。

 

 希一の覚悟が決まる前に三本目の指を立てた荘輔が走り出す。

 

 道に降りた荘輔のスニーカーがアスファルトを叩くのに続いて

 希一も道に降り立った。


 と同時に目が道の左側にはしる。

 知らされたとおり、

 左に一体のシカバネが目に入った。

 

 が、希一が想像していたよりも近い。

 十歩分もない距離にそいつはたたずんでいる。

 

 シカバネが希一たちの足音を聞いた途端に動き出した。

 関節の動きをひきつらせた不安定な歩き方で迫ってくる。

 

 久々にシカバネを間近に見た希一は、やにわに心臓に肋骨の裏側を叩かれた。

 

 服装は乱れているが会社帰り風の中年男だ。

 連中に襲われて今の姿になったに違いなかった。

 靴の片方が脱げていて、見えた足は元が何だったのか分からないほど

 肉がかじり取られている。

 スーツからのぞくワイシャツは裾を引っ張り出され、

 腹の部分が真っ黒に染まっていた。

 シャツの裾から黒い帯状の物がぶらさがり、

 顔にいたっては頭蓋骨に赤黒いペンキを塗りたくったみたいで、

 かろうじて残っている眼は例によって瞳孔が異常に拡大していた。

 

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 こんな状態になってもまだ動くのか……。

 

 そいつから目を離せぬまま、

 肺から空気を叩き出された希一は姿勢がぐらついた。

 

 吐き出した分の空気を吸い込んでいるうちに荘輔は塀を登り切っていた。

 

 やばい……見てなかった。どうやって登ったんだ。

 

 塀の上を数歩進んで振り返った荘輔はこちらに目を瞠った。
「何やってんだ! はやく来い!」

 

 棒立ちになっている希一は弟の怒声に殴りつけられた。

 弾けるように走って塀に掻きつく。

 しかし、やはり塀は線形に高く、

 かててくわえて足がかりがない。

 腕力だけではどうやっても登れなかった。

 

 そうしてる間にも不規則な歩調の足音と

 喉奥から息を抜くような唸り声がが近づいてくる。

 

 〝そこで待ってろ、すぐに食ってやる〟


 そんな呪詛の声が一歩ごとの大きくなってくるようで、

 希一の背面を頭の先から踵にかけて寒気が駆けめぐった。

 

 続く

 ↓

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