NIWAKAな綴り士

危険なモノ 奇妙なモノ そういったことに共感し思いついたことを綴ります

序章 -03-

 本から顔を上げると、

 心配そうに眉を八の字にした少女が自分を見つめていた。


 綺麗な人……。

 

 良く通る澄んだ声。

 短く切り揃えられた髪。

 男子に負けず劣らずの背丈。

 すらりと伸びた手足を包む薄手の長袖と

 タイトなジーンズは本当に彼女によく似合っていた。

 

 多分、上級生だろう少女は、

 自分と一、二才しか変わらないはずなのに、

 随分と大人びて見える。

 本から飛び出てきたんじゃないかと結愛は思った。

 

「いつも、ここで本読んでる子だよね? 何かあったの?」

 その少女が大野優子だった。

 

 話し掛けけられた結愛は、

 鼻の奥につんとした痛みを、

 でも心地好い感覚が抜けていくのを感じた。

 

 すると堰(せき)を切ったように涙が溢れた。

 鼻はいくら啜っても乾かなかった。

 

 優子は保健室に連れて行ってくれた。

 道すがら、優子は学校新聞を書いていると言った。

 おすすめ本を紹介していて、

 記事を書くために図書室にいる生徒にインタビューしていたそうだ。

 中でも特に楽しそうに本へ鼻先をくっつけていた結愛は、

 インタビュイーの筆頭だったたらしい。

 

 その結愛が最近図書室に来なくなったので

 「どうしたんだろう?」と気掛かり思っていたところ、

 久し振りに結愛の姿を見つけた優子は

 張り切ってインタビューを申し込もうとしたが――。

 

 今にも泣きそうになっている結愛が目に入ったという事だった。

 

 泣いていたわけを訊ねられた結愛は、

 胸の内に溜まっていたものを全部吐き出した。

 優子は一つ一つを飲み込むように頷いてくれた。

 

 ふいにつむじから毛先まで流すように髪を梳かれた。

 結愛が顔を上げると、優子の温かい手で頬を包まれた。

 

「結愛ちゃん。

 これから毎日図書室においで。

 私、結愛ちゃんがどんな本読んでるか教えて欲しいな」

 

 結愛は小さく、でもしっかりと頷いた。

 

 続きです。

  ↓

http://niwaka151.hatenablog.com/entry/2016/04/19/133019