NIWAKAな綴り士

危険なモノ 奇妙なモノ そういったことに共感し思いついたことを綴ります

ACT Ⅲ   天竺鼠:ギニーピッグ ―15―

「透かしのブロックに足を引っかけるんだよ!」


 言われて希一は塀の横面に目を移した。

 ブロック塀の上と下の段の数カ所に

 漢字の「四」に似た形の透かしブロックがあるのをみつけ、

 慌てて爪先を差し込む。

 

 ブロックを足がかりに体を持ち上げた希一は、

 荘輔に手を取られて塀の上まで引っ張り上げられた。

 

 礼を言う間もなく荘輔に促されて塀を奥まで進んでいく。

 ちょうど住宅の中間あたりで希一は胸ぐらを掴まれた。

 そのまま家の壁に押しつけられる。

 

「先に登るのを見ておけって言ったよな」
 小声にも厳しい語調を聞かせてくる。
「ちゃんとわかってんのか」
 荘輔は空いてる方の手を来た道に向けた。
「もう一歩遅かったら死んでんだぞ」


 忌々しそうな唸り声とともに塀の下から突き出されたシカバネの手が、

 今も希一達に掴みかかろうと空を掻いていた。

 

「しっかりしろよ!」

 

 荘輔の叱責に希一は閉口してしまい、

 ただカクカクと頷くしかなかった。

 

 そんな情けない姿を見てだろう、

 荘輔は語気を和らげる。
「兄貴はまだ慣れてないし、怖いのもわかるよ。

 でも、〝怖い〟とか〝痛い〟とか〝苦しい〟っていうのは、

 生きるために困難を切り抜けるようとする活動の初期動作なんだ」

 突然、断固とした眼光で希一は射すくめられた。
「どんな時だろうが、思考と行動は止めちゃいけないんだよ。

 僕が言えた義理じゃないけどさ」

 

「…………」
 情けねぇ。

 

 これまで守る側にいたはずの自分が、

 弟に胸ぐらを掴まれて叱られ、

 そのうえ脆弱すぎる体たらくを見かねられて手加減までされている。

 

「……すまねぇ。もう、さっきみたいなことにはならないようにする」
 希一は引き縛った唇をゆるゆると解いた。
「町の中心が目的地なんだろ、そろそろ行こうぜ」

 

「いや、まず一休みしようよ」
 言いながら荘輔は背後ある住宅の小窓を開けた。
「中継地点にはついたから」

 

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