NIWAKAな綴り士

危険なモノ 奇妙なモノ そういったことに共感し思いついたことを綴ります

ライターと易者 小さな文鎮 ②

「家に帰ってから開けたほうがいい。

 君が思っている以上に汚い物が入ってるからね」

 

 そう忠告されて言う通りにした僕は、

 自宅のデスクの椅子に腰を下ろしている。

 

 ポケットの底に沈み込んでいた文鎮を取り出し、

 何となくパソコンの脇に置いてみた。

 

 …………不思議と絵になるな。

 

 そんなことを考えつつ、僕はくだんの封筒を開けた。

 

封筒.jpg 

 

 瞬間、動物性のすえた臭いがぱっと立ちのぼる。

 

 封筒を逆さにして振ると、恐ろしく汚い便せんが数枚が滑り出てきた。

 

 経年の黄ばみもあるのだろうが、

 それ以外の汚れが便せんの全面を覆っている。

 酸化したせいで赤茶けたのだろう滲み。

 タンパク質と塩分、リンパ液と鉄分で構成された

 体液が乾いたあと特有のごわついた手触り。

 

 おそらく血液によるものだ。

 

 封筒にまだ厚みを感じて振ってみたが出てこない。

 内側に張り付いてるみたいだ。

 指を差し込んでみると歪な形の紙が一枚が入っている。

 

 破かないようにペーパーナイフで切って封筒を展開させると、

 外国の新聞のスクラップだった。

 剥がれかけている端をつまんで引っ張ると、

 「ぺりっ」っという乾いた音を立てて取れる。

 

 糊で接着したというよりは

 粘性のある液体が付着して乾燥したといった様子だ。

 

 記事には老人の写真が載っていた。

 両目の外側を異常なまでに垂れ下げて、

 くっきりと深い皺を額に重ね、

 マッチ棒を逆さにしたような鼻の下では口をへの字に結んでいる。

 ――つぶさに見てみると、老人の瞳は目の形にならうようにして離れていた。

 

 単純に嫌悪感に駆られて記事を置いた僕は便せんに目を通した。

 しかし、こちらも外国語で書いてあって訳が分からない。

 

 僕のライター業はあくまで国内生産で国内消費だ。

 国外に出たことはない。

 

 仕方なくネットの翻訳サイトに前文を打ち込んで変換する。

 

 相変わらず翻訳サイトの仕事は拙い有様だ。

 それでも、目に付く単語をつないでいくと次第に内容が見えてきた。

 

 胸糞が悪くなる。

 ――それと同時に、僕の中にある何かが満たされていく。

 

 首筋に粟立ちを覚えつつ、

 僕は文章ソフトを立上げて清書作業を開始した。

 

 カシャカシャ、カタンッ、パシンッ。

 

 そんな年代物のタイプ音が部屋中を跳ね回る。

 キーボードに改造されたタイプライターのキーは

 指に吸い付いてくるようで、

 僕の打ち込む言葉を次々と飲み込んでいった。

 

 

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