NIWAKAな綴り士

危険なモノ 奇妙なモノ そういったことに共感し思いついたことを綴ります

幸せな家族 -06-

 たまさかな絵の品評会が終わり、

 洋介は何気なく時計を見やった。

 

 午後1時。真っ昼間じゃないか。

 

 夜勤が明けてお義母さんの家に愛を迎えに行って

 帰ってきたのが午前10時だったからほぼ3時間。

 2サイクルは寝ている。けれど、まだ眠り足りない気分だった。

 携帯電話もまだまだお腹がいっぱいにならないらしい――ん?

 

 見ると、座机の上で充電器に掛けてあったはずの携帯電話が外れていた。

 もちろん自分は外した覚えがない。
 そういえば、愛がカーテンを開けたとか言っていた。

 

 となると……。

 

 黙って容疑者の方に目を向けると、

 愛は舌を出してくりっと首を傾げてみせる。

 やんちゃがばれたときの愛の癖だ。
 どうやったかは知らないが、危ないことをやったから携帯電話はああなったのだ。

 

 洋介は人差し指同士を交差させてバッテンを作る。

 

「だめだぞ」

 

「ごめんなさい」

 

 愛の小さな身体がしおらしくなってさらに縮こまる。

 洋介はこれ以上叱る必要はないと思った。

 なぜなら愛は今まで同じ事を二度繰り返したことなんてないのだ。

 

 そう、この子は賢い。

 

 洋介は携帯電話を充電器にかけ直した。

 振り返ると、愛は洋介の手元をじっと見ていて

 ーーこくこくと頷いていた。

 

 何をしているのか、と小首を傾げる洋介の前で、

 愛は猫よろしくごろんと布団に寝転がる。

 ひっくり返ってうつ伏せになり、泳ぐまねごとを始めた。

 

 どれ、もう一回掻き撫でてやるか。

 と思ったそのとき、電話が震えた。

 バイブレーションがパターンでメールだと告げている。

 せっかく休暇を再開させた者に本業を押しつけるやるせなさを感じつつ

 携帯を取り上げた。画面を指先でタップしてメールを呼び出す。

 

 翔子からだ。

 

[ 件名 何が食べたい?

  本文 仕事が上手くいってとっても気分が良いから
     今日は好きなもの作ってあげる ❤     ]

 

 文面を読んだ洋介は苦笑いした。

 こりゃあ、何かあったな。

 

「愛、ママからだ」

 

 『ママ』という単語が耳に入った拍子に愛は跳ね上がるように身を起こした。

 

「ママ、なんて?」

 

「晩ご飯の話。愛は何食べたい?」

 

「マナおっきいじゃがいものやつ!」

 

 高々と手を挙げる愛に笑い返し、

 洋介は返信メールを短く綴っていく。

 最後の送信画面を表示している携帯を愛に手渡すと、

 

「そうし~ん!」

 

 紅葉のような手でぴんと立てた人差し指が画面に押しつけられた。

 

 最近の子供は読み書きを覚えるよりも先に

 携帯電話の使い方を覚えると聞くが、

 うちもそれに漏れることはなかった。

 

 どうにも良くないカルチャーギャップを感じるが、

 もはや生活必需品なので欠かせないのだから仕方ないだろう。

 

 愛から返ってきた携帯をまたぞろ充電器に戻したところで、

 さてもう少し寝ようかなと洋介は思った。
 が、不意にスウェットの袖を引っぱられる。

 

「おとーさん、おえかきしよ~」

 

 言いながら愛が両手で掴んでいる袖を左右に大きく振った。

 そうやってねだってくる姿も可愛らしい。

 その愛らしさは強く、眠気はどこかに飛んでいってしまう。

 

「そうだな、絵ぇ描くかな」

 洋介が愛の頭をくしゃくしゃにすると、

 愛はくすぐったそうにニンマリと歯をのぞかせた。

 

「うん! いこう!」

 

 愛に袖を掴まれたまま子供部屋まで引っ張られる。

 小さな先導に手を引かれて洋介は前屈みなってについていった。

 

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