ようこそ、新入部員! -01-
「それじゃあ、月々千円な」
カイトは『な』のところで後ろ手に手を振った。
ジェルハードを効かせたギザギザの髪は、
頭に『不逞(ふてい)の』を付けているようで、
輩(やから)特有の軽々しさを目に見えるようにしたみたくに逆立っていた。
彼の後頭部がドアの向こうに消え、
私は一層静かに感じる女子トイレに残った。
今となっては、月会費の千円にも不満はない。
私は望んでここに来たのだ。
入ってすぐ、左手に手洗い場がある側の列は個室が三つ、
通路を挟んで右側には四つのある。
そして、通路のどんつきに小さなテーブルがあり、
その上にはキャンパスノートが開いてあった。
手洗い場の蛇口を試しに捻ってみたが水は出ない。
トイレなのに水気がまったくない。
埃っぽい砂と、どこか錆を思わせる匂いが飽和している。
カイトの言っていた通りだ。
ここはもうトイレとして機能していない。
見たままの形をしただけで、生きていない空間だった。
幽かに人の気配があり、それがトイレ独特の音響を抑え込んでいる。
沈黙と静寂が延々と立ち話をしている。そんな感じ……。
私は興奮を覚えて躍りだしたくなった。
ここは、ずっと私が探していた場所だ。
私こと小我裕生(こが ゆうき)は、地元の公立中学に通っている。
制服は私立の洒落たブレザーではなくて、
習字で使う下敷きみたく真っ黒な学生服だ。
ここの中学校というのが、変わった校風を一貫していて、
生徒はもれなく何かしらのクラブに入部しなければならなかった。
おまけに、体調不良または家の用事以外で放課後すぐに帰ってはならない。
終礼から一時間後の午後四時までは校内に拘束するという徹底ぶり――。
つまりは、帰宅部に甘んじられないのだ。
さらに、用もなく放課後に校内をふらふらしていたら、
この校風に毒された模範生徒らによって〝難民〟だと揶揄される始末。
さてさて、私は困り果てた。
そもそも、私の培ってきたステータスの中で、
交友関係は伸びしろが望めないほど苦手なカテゴリーである。
はっきり言うが、私は出来る事なら透明人間になりたいくらい
人間関係をどうとも思っていないのだ。
それでも、一斉入部日はきてしまった。
続く
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