NIWAKAな綴り士

危険なモノ 奇妙なモノ そういったことに共感し思いついたことを綴ります

ACT Ⅲ   天竺鼠:ギニーピッグ ―05―

「兄貴、兄貴」

 

 荘輔に肩を揺すられて希一は目を覚ました。

 見ればカーテン越しに陽の光が差し込んで部屋が明るくなっている。

 

「よく寝てたね」

 荘輔が目許にクマの溜めた顔で呆れている。

 

「あ――、悪い」

 ばつが悪い希一に、荘輔は妙にすっきりした声を返してきた。

 

「いいよ。それより――」

 立ち上がった荘輔がドアフォンのモニターを付けた。

「ちょっと発見があったんだ」

 視線をモニターに振って見るように促してくる。

 

 二人並んでモニターの映ったシカバネと向かい合ったところで荘輔が口を開いた。

「よく見てくれ」

 

 嫌に思いながらも言われた通りにシカバネを観察する。

 

 たっぷり1分は経った頃、ようやく荘輔は次の言葉を発した。

 

「こいつ、まったく動かないんだ」

 

 荘輔の言う通り、

 モニターの中で項垂れているシカバネは

 置物みたいに微動だにしていない。

 

 でも、そんなことは二ヶ月も前から知っている。

 狂気した芸術家によって作られたインテリアみたく

 なっているこいつの動態を再確認させてどうするというのか?

 

「居眠りしてた身の上で文句言うのもなんだけど、

 ケチってないでとどのつまりを教えろ」

 

「息をしてないんだ。心臓とかの不随意筋の微動もない」

 荘輔がモニターを見つめたまま言う。

「兄貴が寝てる間に1時間くらいこいつを見てたんだけど、

 画素一個分も動かなかった。

 生きてる人間にはそんなことできないよ。

 シカバネなんて『Z』の付く単語で呼びたくなかったから

 付けた渾名(あだな)だったけど、こいつ本当に死んでるんだ。

 それなのに、音や動く物を見たときは反応して動き出す。

 まるでロボットだよ」

 

 モニターに目を戻した希一はつぶさに目を這わせてみる。

 すると、その確かな異様さを感じ取った。

 段々と本当にそう言うインテリアではないかと錯覚するほどに

 シカバネは停止しているのだ。

 

「やっぱりこいつは眼で見るか音を聞かないと起動しない。

 こっちが静かにさえしてれば休止状態みたいになる。

 突っ立てるだけだ。もう一つ言うと指が腐って外れてる。

 今は自由に歩けるから、外で何か鳴ったらこいつは出て行くんじゃないかな」

 

 それを聞いて希一は思わずドアへ目をやった。

 が、目当ての物はもうドアに絡んではいなかった。

 

「あの指なら取り除いておいたよ。何かの拍子に落ちて欲しくないからね」

 

「お前、あれに触ったのか?」

 

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 希一が声を引きつらせると、荘輔は事もなげに言った。

 

「ちゃんと手は洗ったよ」

 

 続く → http://niwaka151.hatenablog.com/entry/2016/03/07/142836