NIWAKAな綴り士

危険なモノ 奇妙なモノ そういったことに共感し思いついたことを綴ります

ライターと易者 小さな文鎮 ①

 広く年輪を重ねた木目テーブルの上、

 今し方ほどかれた黒色の包み袋の真ん中に

 

 小さく、白く、何より美しい物体が置かれている。

 

 それを〝文鎮〟だと紹介したこの店の店主である易者に促されて、

 僕は手に持ってみた。

 

 すると、

 

 なんとも頼りない重さを手の平に感じた。

 紙をおさえる物としては相応しくない重さである。

 

 しかし、美しい。

  

「――で、なんですこれ?」

 僕はあえて訊き直してやった。

 

 易者は自慢そうに口ひげを弄くりながら、

 

「だから、文鎮ですよ」

 と一言云うだけだった。

 

 僕はもう一度、

 

 〝文鎮〟

 

 と称された小さな白色のそれに目を落としながら継ぎ穂を拾う。

 

「文鎮にしては随分と軽いですね」

「材質は石膏ですので」

「それになんだかバランスも悪そうだし、紙が変な形でくぼんじゃいそうだ」

「もともとその為に作られたわけじゃないですからね」

「見れば分かります。ところでこれの〝持ち主〟は?」

「なぜそのようなことを訊くんです?」

「参考までにです」

「庭師です。定年を過ぎた老後もペカンなんかの庭木を育てちゃあ卸してたみたいです」

「いや、違うでしょ。それにしちゃあ随分と小さいじゃないですか――」

 

「これ以上知りたいなら買ってください」

 

 易者はそう言うとキャビネットから一枚の古ぼけた封筒を引き抜いて文鎮の横に置く。

 

「お買いあげならこれも付いてきます。

 この文鎮がどうやって作られたのかが書いてありますよ」

 

「お幾らですか?」

 

「少々お高いですよ」

 

「大丈夫ですよ、5万円ありますから」

 

「それは良かったです」

 

「と言われるのは?」

 

「こちらの品は5万円ですので」

 

「…………」

 

 易者は手早く文鎮を包み直し始める。

 

「先に言っておきますが、

 それを読んでしまったがために返品したくなっても受け付けませんよ」

 

 封筒と共に包まれた文鎮を差し出された僕は、

 黙って財布から5万円を引き抜いた。

 ――当たり前だが財布は空っぽになった。

 

 

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