NIWAKAな綴り士

危険なモノ 奇妙なモノ そういったことに共感し思いついたことを綴ります

シカバネ

ACT Ⅱ   始まり ―04―

「荘輔、何が起きてるんだ?」 弟の声に張り詰めていた緊張がふっと緩んだ希一は情けない声を出した。 「分かんないけど、今どこにいる?」 「ほ、本通りの前」 「本通りは通るな!」荘輔は抑えながらも断固として言い荒らげた。 「道に入ったらすぐ右に曲が…

ACT Ⅱ   始まり ―03―

荘輔からの連絡は一時間ぐらい前をさかいにピタリと止まっている。 希一はメールの一つを開いた。 『ヤバいことになってる。すぐに帰ってきてくれ』 どのメールも一様に危険が迫っていることを強い言葉で伝えていた。希一は着信履歴から荘輔の携帯にかけた。…

ACT Ⅱ   始まり ―02―

「ちょっと! 何やってるんですか!」 声に驚いて希一が目を向けると担当が休憩室に飛び込んできた。しかし担当は止めに入りはせず、組み合う二人と反響する悲鳴に気後れして足は床に張り付いたように動かなくなる。 希一は気が付くと立ち上がって二人に駆け…

ACT Ⅱ   始まり ―01―

昨日の晩は近くのステーキハウスで悠々と夕食を済ませた。勢いでジョッキをいくつも空にしてしまったので今でも少し頭痛がある。時折こめかみを襲ってくる疼き苛々しつつ、希一(きいち)はハンドリフトで原料を運んでいた。 怪物がいるだって――。 「馬鹿馬…

ACT Ⅰ   兆し ―05―

薄暗い部屋に入った瞬間、希一は独特な匂いに鼻を突かれた。金属と木材と布が体臭と呼気で湿気った匂い。とても同じ親から産まれたとは思えない臭気が飽和している。ロフトベッドで行動範囲を狭められてL字型になった部屋の最奥から荘輔が手招きしてきた。 …

ACT Ⅰ   兆し ―04―

仕事を終えた希一は油が染みたつなぎをロッカーに放り込んだ。 ……そろそろクリーニングに出さないと。そう思っても二着しか配布されていない。もう一着はそのクリーニングから帰ってきていないのだった。まったく。 …………? いつもならこのあたりで他の作業員…

ACT Ⅰ   兆し ―03―

あれから一週間、荘輔(そうすけ)はパソコンにかじり付いていた。その間に若い政治家が数人事故死したくらいで特に世間で目立った事件はない。 人の死。でもそれは他人の死であり画面の向こう側の話だ。さらに政治家と言えば盲目的に悪人と同義である。そん…

ACT Ⅰ   兆し ―02―

荘輔は両親が死んだ際に鬱病を発症して休学、それが原因で大学を辞めていた。しばらくは自宅に引きこもり、二人で分けた親の遺産を切り崩して暮らしていたが、預金残高が減っていくだけの状況に耐えれなくなり、最近はアルバイトで食いつないでいる。最終学…

ACT Ⅰ   兆し ―01―

仕事のシフトが終わり引き継ぎを済ませた守野希一(もりの きいち)は更衣室のロッカーを開けた。 豚肉、牛肉、鶏肉といった動物性の油を吸って気持ち悪く湿った作業用つなぎを脱いで放り込む。 私服に着替えていると後から来た作業員に下世話な話題を振られた…

シカバネ

初めまして、如月了一(きさらぎ りょういち)と申します。 以後、どうかお見知りおきを……。 ゾンビの歴史は古く、 ヴードゥー教の刑罰やコンゴの神の名前『ンザンビ』に由来するらしく 1932年のアメリカの『ホワイトゾンビ 恐怖城』がゾンビ映画の始まりで…