NIWAKAな綴り士

危険なモノ 奇妙なモノ そういったことに共感し思いついたことを綴ります

ライターと易者 小さな文鎮 ⑤

 読み終わってようやく喉が渇いているのに気が付いた。

 

 流し台の棚に置いてあるグラスに水道水を注いで飲み干す。

 

 僕はほうっと一息ついた。

 

「世の中には自分勝手なやつがいるなぁ」

 

 つまりは、あの石膏でできた文鎮は手紙に

 書いてあったコリンナのものと考えて間違い無い。

 

 でも、ここで新たな疑問にぶち当たる。

 

 すなわち、なんで手だけなのか?

 

 多分、その疑問は簡単に解消される。

 

 あの易者がそんな消化不良を起こすような品物を売りつけるとは思えない。

 暴利をふっかけてきてもそこは信頼できる。

 

 僕はデスクに戻って残りを片付けることにした。

 

 

aa.png

 封筒に張り付いていた新聞のスクラップ。

 

 その翻訳作業は二度目と言うこともあって三十分で終わった。

 

 以下は清書した内容である。

 畏敬と恐怖を思い、都市名などの諸情報は省かせてもらう。

 

 

 1998.5.3

 昨年の後半、国中を驚愕させた猟奇事件のまとめ

 

 校外に住むハルラン家の一人娘、

 当時十二歳の誕生日を迎えたコリンナが、

 隣に住む庭師のアドルフ・キーダーセンに誘拐される。

 キーダーセンはコリンナを誘拐後に窒息させて殺害、

 その後に彼女の遺体を剥製にした。

 ハルラン夫妻は裁判の際、死刑求刑を訴え、

 民意の署名活動によりアドルフの死刑を勝ち取る。

 しかし、アドルフが死刑執行を待つ身となった二ヶ月後、

 何者かによってコリンナの墓が掘り返されていた。

 コリンナの剥製を持ち出したのは都市部を縄張りにするチンピラ達で、

 「持ってきたら高く買ってやる」と顔を隠した男に言われたと供述している。

 棺から無理に取り出したようで、

 剥製は右手首から先を失っており、捜査しても見付からなかった。

 

 

 僕はデスクに置かれたコリンナの右手に目をやった。

 

 大きめのマウスくらいに縮こまっている白い石膏の塊。

 

 だが――。

 

 その手の形は確かに美しい。

 

 僕はそっと小さな手に自分の手を重ねてみた。

 

 不思議と、敬虔的で静かな気持ちになった。

 

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