NIWAKAな綴り士

危険なモノ 奇妙なモノ そういったことに共感し思いついたことを綴ります

ACT Ⅰ   兆し ―02―

 荘輔は両親が死んだ際に鬱病を発症して休学、それが原因で大学を辞めていた。しばらくは自宅に引きこもり、二人で分けた親の遺産を切り崩して暮らしていたが、預金残高が減っていくだけの状況に耐えれなくなり、最近はアルバイトで食いつないでいる。最終学歴はもちろん高卒で、しかも自主退学ときたもんだ。ハローワークの求人先には軒並み相手にされなかったと言っていた。もともと人付き合いが苦手なのもあってアルバイトも長続きしていない。

 なので、半月働いてあとの半月は引きこもっている。

 そんな荘輔が数十分にわたって行った講説いわく、国民保護サイレンとは地震速報などを伝えるアラームの最高水準緊急警戒警報で、戦争勃発やそれに相当する大規模な自然災害が発生した場合にのみ、その危険地域で鳴らされるものらしい。

 荘輔は最後にそれらの脅威にならぶ武力攻撃が行われている場合も含まれると付け加えた。

 だが、異常事態を訴えて息巻く荘輔を尻目に、ほどなくして例の行政スピーカーから放送があり、サイレンは誤報だったと告げられた。

 希一はテレビを観ながら缶ビールを喉に流し込んで一息ついた。

「自然災害に相当する武力攻撃って何だよ?」

「核ミサイル」荘輔の目付きは面目くさっている。

「そうか、あれが誤報で本当に良かった」

「だとしたら大誤報だよ。全国の市区町村で鳴ったみたいなんだ」

 北は北海道から南は沖縄まであの不気味な音が響き渡ったのだと、ツイッターでもLINEでも国民保護サイレンの話題で持切りらしかった。

「何か起こってるんじゃないかな。それか、何かが起ころうとしてるんじゃ」

「でも、おもてで銃撃戦はやってないし、暴動も起きてない。世界のどこから発射されようが核ミサイルが一時間もチンタラ飛んでる訳ないし、テレビじゃ速報も流れてない。ただの誤報だろうよ」

「でも――」

『続いてのニュースです。本日午後四時頃に警戒サイレンが全国で流れるという誤報騒ぎがありました』

 荘輔を遮(さえぎ)るようにニュースキャスターが流暢(りゅうちょう)にトピックを読み上げる――気のせいか音量が上がったような……。

『犯人は情報通信科を専攻する学生で、全国瞬時警報システム、通称:J-ALERT(ジェイアラート)をハッキングし、インターネットでダウンロードした音声を再生したと供述しています』

 画面が切り替わって犯人と思しき青年の写真が映し出された。キャスターが原稿を読み、顔にモザイクが被せられた写真の下に『悪戯のつもりでやった。後悔している』と字幕が入った。

 映像がスタジオに戻されゲストコメンテーターが待ってましたと口を開く。

『最近じゃあ、どんな情報でもネットにあるからねえ。その危険性が現実になったんでしょう。しかしこれはイタズラが過ぎたね、何せ国民保護サイレンを流したんだから』

「こんなのおかしい!」荘輔がテレビに向かって声を大にした。「あれからまだ一時間しか経ってないのに犯人が捕まるなんて!」

『幸いにも迅速に逆探知できたことがスピード逮捕につながったとして警察関係者も胸をなで下ろしています』

 まるで荘輔の非難に反論するみたくニュースが終わり、テレビを睨みつける荘輔の肩を希一は軽く叩いた。

「お前は危機感がありすぎるんだよ」

 

 続く…… → http://niwaka151.hatenablog.com/entry/2015/12/10/203635