ようこそ、新入部員! -12-
頭にピキッと走るモノがあった私はさっさと屋上階に上がりきる。
「今日来るとは思わなかったぜ」
「……はあ?」
「いや、だってお前泣きそうだったからさぁ」
目を落ち着かせるのに費やしたあの数分間を思い出して頭が熱くなる。
つい力んでしまい、首筋辺りの骨がピキッと音を立てた。
「ど……どこで私の名前を」
怒りが腹に据えかねるほど沸き立っているが、
やはり目の前の相手が正直言って怖い。
こいつは自分の目的のために女子トイレに入ってくるくらいに
頭のいかれた奴なのだ。
おまけに自らを如何わしいと言い切った変人である。
犯人と一対一でつら付き合わせて証拠を並べていく探偵の気が知れない。
屋上との段数合わせで扉前に設けてある二段の階段に腰掛けたまま、
そいつは口を開いた。
「別に悪巧みして誘ったんじゃないから気にすんな。
まっ、それなりの伝(つて)を持ってるだけだ。
その伝から得た情報。欲しけりゃあ、お前だって伝は持てる」
「答えになってません」
敬語が口を突いて出た。
相手は座っているのに何故か見下ろされている気分だ。
「分かった。じゃあ、ヒントだけやるよ。
上と下があるんだけど、上っていくんじゃなくて下っていく物ってな~んだ?」
「バカにしてるんですか?」
「いいや、むしろその逆だ。このくらい解けるだろうとお前を信頼してんだよ。
先公の出してくる模範解答みたく、手取り足取り教えてやったんじゃあ
人間は成長しねぇからな。
バカを量産する日本の教育カリキュラムには反対でねぇ……」
やれやれと両手を肩当たりまで持ち上げて振ってみせ、
「そんじゃ、前置きはこのくらいにして説明に入ろうか? まずは自己紹介から――」
「まず、私の質問に答えて下さい」
睨んで言い返したのに、そいつは厭に落ち着いた調子でスッと立ち上がった。
一直線な目線をこちらに向けたかと思うと――
不意に相好を崩した。
「お前、目ぇ開けると可愛いな」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
言葉の意味と人懐っこい顔が認識されたのが同時だったため、
情報処理の過程で脳と身体に伝達にズレが生じたのか立ちくらみがした。
――そんな言葉、父親以外の異性から言われた事がない。
こんな状況なのに、嫌悪感だけで満たされていない自分の感情が不思議だった。
よろめく私の心境を知ってか知らずか、そいつは笑ったまま言った。
「俺はカイト。よろしくな」
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