NIWAKAな綴り士

危険なモノ 奇妙なモノ そういったことに共感し思いついたことを綴ります

六年生七不思議 -04-

「なんかさ、最近風強くねぇ?」


「夏だからだろ?」

 

「そうじゃなくてさ。北風みたいな――」

 

 誰とも知れないひそひそ話にチャイムの音が被さる。

 担任の山寺先生は持っていた大きなコンパスを黒板下のフックに引っ掛けた。

 

「はい、給食係りは給食の準備。

 黒板係は黒板消し。残りの人は机を班の形」

 ぱんっと小気味よく手が打たれる。

 

 先生の一声で教室はてんでに騒がしくなった。

 

 教材を手早くまとめた山寺先生は、

 「ちゃんとやっとけよ」と言い残して一旦職員室に戻っていく。

 

 六年二組の生徒である結愛は三班。

 今週は給食係りだ。
 掲示板下のフックにかかっているエプロンを取りに行く。

 掲示板には時間割表や学校だよりが画鋲で留められていて、

 色紙を円く切って作った週番表は週毎にくるくると回る。

 フックに掛かっている巾着を開いて簡素な白いエプロンを取り出し、

 引っ被るように結愛はそれを身に着ける。

 腰から伸びる紐を前に回し、二本まとめて引きとけ結びにした。

 

 次いで巾着をエプロンのポケットに押し込んいると、

 ぽんっと肩を叩かれた。

 

「穂坂さん、牛乳取りに行こう」

 

 びくりと肩を震わせて振り向く。

 同じく三班の一樹博太(いつき ひろた)が隣でエプロンを身に着けていた。

 頭の丸みがよく分かる短髪。小顔に栄える大きな目は子犬を思わせる。

 引き締まった頬は早くも陽に焼けていた。

 

 手早く紐を蝶々結びにした博太に笑いかけられた結愛はこっくりと頷いた。

 

 それを見ていたクラスのお調子者で

 博太の友達である明松勝(かがり まさる)が、

 口をすぼめて「ヒューヒュー」とはやし立てる。

 

 遠巻きでは綾瀬真理(あやせ まり)とその取巻の女の子二人が、

 ちらちらと目を動かしては、内輪で囀(さえず)りあった。

 

 最近、お決まりなってしまったパターンにまたぞろはまってしまい、

 結愛はうつむいた。みんなの好奇の目が一斉に集まってくる。

 恥ずかしくて、嫌で仕方がない。

 

 何よりも、真理から注がれる猛禽類のような鋭い眼が怖くて堪らなかった。

 

 これまで直接に何かをされた事こそないが、

 「やろうと思えば、いつでもやれる」

 そういう気迫を真理は常に醸し出していた。

 

 へばりつくような嫌な感覚がして、胸の奥がずんと重くなる。

 耳鳴りがし始めて、結愛は気持ちが悪くなってきた。

 

「やめろよ、マサ!」

 博太が語気を強めてそう言った。

 

「俺だけかよ!」と勝が返す。

 

 博太はドアを開け、結愛を廊下に出してくれた。

 ふらついた足元の景色が教室の組木床から

 廊下の硬く冷たいコンクリートに移り変わる。

 教室では声がどっと大きくなった。

 

 ぴしゃりとドアを閉めた博太にまたぽんっと肩を叩かれた。

 

「行こう」

 

続きです

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